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大人の吃音とは?原因と症状、仕事での対処法・相談先まで紹介

目次
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この記事は 2 分で読めます。

電話や会議で第一声が出なかったり音を繰り返したりするのは、単なる緊張ではなく「大人の吃音」が原因かもしれません。

本記事では、大人の吃音の原因や症状を客観的に解説。言葉が詰まる前提で使える電話対応テンプレートなどの仕事術から、専門機関の相談先、活用できる公的制度まで詳しくご紹介します。

この記事のまとめ
  • 大人の吃音の正体
    気合や緊張の問題ではなく、脳の働きや体質が関係する発話障害です。大人では特に「言葉が詰まって出ない(難発)」症状が多く見られます。
  • 仕事で使える即効テクニック
    「詰まる前提の事前台本」「言いやすい言葉に換えた電話テンプレート」「焦りを防ぐ定型フレーズ」を用意しておくだけで、仕事のプレッシャーや不安をグッと減らせます。
  • 医療機関と公的サポート
    耳鼻咽喉科や心療内科で専門的なケアが受けられるほか、障害者手帳や自立支援医療、ハローワークなどの制度を使って医療費や働き方の悩みを軽くできます。
狩野 淳
監修 狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)
この記事は、大学院で発達心理学・臨床心理学を学び、臨床心理士・公認心理師として、子どもや保護者への心理支援に携わっている専門家が監修しています。
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吃音(どもり)とは?

吃音(きつおん・どもり)とは、緊張や性格の問題だけではなく、話したい言葉がスムーズに出にくくなる発話障害です。

大人の場合は、特に「言葉が詰まって出ない」症状に悩むケースが多く見受けられます。頭の中には話したい言葉が浮かんでいるのに、声が喉の奥で引っかかって、スムーズに出ない感覚こそが、吃音の大きな特徴です。

吃音は子どもだけではなく大人もみられる

吃音と聞くと幼少期特有の症状だと思われがちですが、大人になっても発話の引っかかりが続くケースも少なくありません。

幼少期は言葉の最初の音を繰り返す症状が中心だった場合でも、成長するにつれて声が詰まって出ない状態へと変わっていくことがあります 。症状が変化していく過程で、言葉が出ない状態を単なる極度の緊張だと誤解してしまう大人は多いようです。

自分自身でも吃音であることに気づかず、気合や自信だけで乗り切ろうとして苦しむ人も珍しくありません。

吃音(どもり)がある大人の割合

国立障害者リハビリテーションセンターの資料によると、吃音のある人の割合は全人口の約1%(100人に1人)になると報告されています。

街中や職場で吃音を持つ人に気づきにくい理由は、多くの大人が言葉を別の単語に言い換えたり、話す場面自体を避けたりして、症状を隠しながら生活しているからです。

大人の吃音に見られる3つの主な症状

この章のポイント
  • 吃音には「繰り返す」「伸ばす」「詰まる」の3タイプがある
  • タイプによって言葉の詰まり方が違う

吃音の症状は、大きく3つの種類に分けられます。具体的にどのような話し方になるのか、吃音の3つの症状を順番に解説します。

同じ音を繰り返す「連発」

「連発」とは、最初の音や言葉の一部を何度も繰り返してしまう症状のことです。

「おはようございます」と言う時に「お、お、お、おはようございます」となってしまう状態を指します。職場で電話に出る際に「も、も、もしもし」と繰り返してしまうケースも「連発」に当てはまります。

言葉の出だしでつまずくことが多く、話し始めに大きなエネルギーを必要とする傾向が見られます。

最初の音を引き伸ばす「伸発」

「伸発」は、言葉の最初の音を長く引き伸ばして発音してしまう症状を指します。

たとえば、「ありがとうございます」と伝える場面で、「あーーーりがとうございます」と最初の「あ」の音が伸びてしまう状態のことです。会議の発表などで「えーーーっと」と不自然に長く音を伸ばしてしまう場合も、「伸発」の症状の一つと考えられます。

言葉が途切れないように、無意識のうちに音を伸ばして次の言葉をつなげようとする働きが影響していると言われています。

声が詰まって出てこない「難発」

「難発」とは、話そうとしても最初の言葉が喉に詰まったように出てこない症状です。
自己紹介で自分の名前を言おうとしても、口を開けたまま声が出なかったり、数秒間沈黙してしまったりする状態を指します。

「難発」は、周囲の人間からは単に黙っているように見えるため、相手に「なぜ話さないのか」「質問を聞いていないのではないか」と誤解されやすいという難点を持っています。

言葉を無理にひねり出そうとして身体に力が入り、顔をしかめたり、手足を動かしたりする動作を伴うケースも少なくありません。

吃音症の原因

この章のポイント
  • 吃音は根性論ではなく「子どもの頃から」と「大人になってから」の2種類がある
  • 子どもの頃からのタイプは「またどもるかも」という恐怖や避けるクセがつきやすい
  • 大人になってからのタイプは脳の病気や強いストレスが原因で突然起こる

吃音症が起こる理由は、単なる「性格の弱さ」や「気合が足りないから」といった精神論ではありません。吃音が発症する時期やきっかけによって、原因は大きく2つの種類に分けられます。大人が抱える言葉の詰まりの正体を正しく把握するために、それぞれの原因を詳しく解説します。

子どもから続く「発達性吃音」

大人が抱える吃音症の大部分を占めているのが、「発達性吃音」と呼ばれるタイプです。発達性吃音は、主に2歳から5歳頃の幼児期に発症する特徴を持っています。

子どもの頃に始まった言葉の詰まりが消失せず、大人になっても症状が続いている状態が、大人の発達性吃音に該当します。

  • 幼児期(主に2〜5歳頃)に発症する、吃音全体の約9割を占める最も一般的なタイプ
  • 成長とともに自然に症状がなくなるケースも多い一方で、一部の人は学童期、思春期、そして大人になっても症状が続く
  • 発症の原因は「親の育て方」や「本人の性格(神経質など)」ではなく、生まれつきの体質や脳の働きなどの要因が複雑に関係していると考えられている
  • 長年、症状と付き合う中で、「またどもってしまうのではないか」という強い不安や恐怖(予期不安)を抱えやすいのが特徴
  • 症状を目立たせないように、言いにくい言葉を別の言葉に言い換えたり、話す場面自体を避けたりする「回避行動」が習慣化していることが多くなる

大人になって急に始まる「獲得性吃音」

子どもの頃はスムーズに話せていたにもかかわらず、大人になってから突然症状が現れるタイプを「獲得性吃音」と呼びます。獲得性吃音は、発症のきっかけによってさらに2つに分類されます。

  • 10代後半以降の大人になってから、ある日突然発症する吃音(吃音全体の約1割程度)
  • 発症の原因によって、主に「神経原性」と「心因性」の2つのタイプに分けられる
  • 神経原性: 脳卒中、頭部のケガ、神経の病気など、脳へのダメージが原因で起こる
  • 心因性: 極度の精神的ストレスや、大きな事故などのトラウマ(心的外傷)が原因で起こる
  • 子どもの頃から続く「発達性吃音」と違い、「またどもるかも」という強い不安や、話す場面を避ける「回避行動」は少ない

突然症状が現れるため、ご本人が一番戸惑いやショックを受けていることが多いのも特徴です。原因となる病気やストレスの治療・ケアと並行して向き合っていく必要があります。

大人になってから吃音症を急に発症する背景・理由

この章のポイント
  • 仕事のプレッシャーなどで「子どもの頃の吃音」が再発することがある
  • 大人になって初めての発症は「脳の病気・ケガ」や「強いストレス」が原因になる
  • ストレスが原因だと思っても、まずは脳の病気がないか調べることが大切

大人の吃音には「再発」と「新規発症」があり、環境の変化や脳の病気、強いストレスなどが主な原因となります。

急に悪化・発症する主な背景

子どもの頃に吃音の傾向があったものの、大人になるにつれて症状が落ち着いていた人が、就職や異動をきっかけに吃音の症状が再発・悪化することは珍しくありません。電話対応や朝礼の司会など「絶対に失敗できない」「スラスラと話さなければならない」という場面での強いプレッシャーが引き金となり、再び言葉がスムーズに出なくなる状態になってしまいます。

一方で、子どもの頃は全く言葉の詰まりを経験したことがない人が、成人後に初めて吃音を発症する事例も存在します。成人後に初めて吃音を発症する症状は「獲得性吃音」と呼ばれ、医学的な原因によって大きく2つの種類に分類されるのが特徴です。

獲得性神経原性吃音

脳梗塞などの病気や交通事故などで、脳の神経にダメージを受けることで発症する吃音症を指します。

たとえば、「昨日まで普通に話せていたのに、脳の病気やケガをきっかけに、ある日突然言葉が出づらくなる」といったケースがこれにあたります。

脳は、口や舌を動かして言葉を話すための司令塔の役割を果たしている重要な器官です。脳の病気やケガによって司令塔の働きに影響が出ると、言葉をスムーズに発する機能がうまく作動しなくなることがあります。

極度の緊張といった心の問題ではなく、脳や神経の損傷という明確な身体のトラブルによって引き起こされる点が、獲得性神経原性吃音の大きな特徴に挙げられます。

獲得性心因性吃音

それまで吃音の経験がない人が、耐えきれないほど強い心理的ストレスを受けたことで、突然言葉が出にくくなる症状です。

脳や身体に明らかな異常がないにもかかわらず、ある日を境に言葉を繰り返したり、喉に詰まって発語できなくなったりするのが特徴です。
主な要因としては、職場でのパワーハラスメントや過度な長時間労働、あるいは大切な家族との死別といった深刻なショックや悲しみが挙げられます。

ただし、心理的ストレスのみを原因とする心因性吃音は、症例として非常に稀です。そのため、「ストレスが原因だ」と自己判断せず、まずは脳や神経の病気など他の原因がないかを医療機関で慎重に調べる(除外診断を行う)ことが重要です。そのうえで心因性が疑われる場合は、仕事量の調整や心療内科・精神科などの専門機関への相談を検討しましょう。

大人の吃音と発達障害・メンタル不調の関係

この章のポイント
  • 吃音はASDやADHDなどの発達障害と一緒に現れることがある
  • 話しにくさだけでなく、失敗の恐怖から不安障害やうつ病につながる(二次障害)
  • 個人の性格の問題にせず、プレッシャーを減らせる環境づくりが大切

言葉がスムーズに出ない吃音は、言葉の症状だけにとどまらないケースが存在します。吃音以外の要素も整理することで、特性に合った働き方や相談先を見つけやすくなるでしょう。

発達障害と併存することもある

言葉が詰まる症状に加えて、発達障害を同時に抱えている人が一定数見受けられます。発達障害とは、特定の作業への苦手意識やコミュニケーションの取りづらさなどを特徴とする、生まれつきの脳の特性です。
「会議で意見をまとめるのに時間がかかる」「複数の事務作業を頼まれるとパニックになる」といった特性が、吃音と一緒に現れるケースが報告されています。言葉が出にくい悩みに加え、仕事の手順を覚えるのが苦手といった困りごとがある場合、発達障害の視点から仕事の進め方を見直すことが大切です。

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狩野 淳
監修者からのメッセージ

狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)

吃音のある方の中には、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害を併存している方もいます。ただし、すべての吃音のある方に発達障害があるわけではなく、吃音と発達障害はそれぞれ異なる特性として理解することが大切です。仕事や日常生活で「話しにくさ」だけでなく、「段取りを立てることが苦手」「複数の作業を同時に進めることが難しい」といった困りごとが続く場合には、発達障害の特性が影響している可能性も考えられます。一人で抱え込まず、必要に応じて専門機関へ相談することで、自分に合った対処法や支援を見つけやすくなるでしょう。

吃音をきっかけに不安・抑うつが強まることがある(二次的な影響)

吃音をきっかけに、不安や抑うつといった精神的な不調が強まるケースは少なくありません。というのも、子どもの頃から吃音が続いていると、言葉がうまく出なかった過去の失敗体験から「また笑われるのではないか」という強い恐怖心が生まれてしまうからです。

「会議で意見を求められるのが怖くて前夜から眠れない」「電話のコール音で冷や汗が出る」といった状態は、本人にとって「単なる緊張」で済まされないほどの、大きな心の負担になっています。無理を重ねた結果、社交不安症やうつ病といったメンタル不調に繋がることもあります。

だからこそ、個人の心構えや性格の問題として処理するのではなく、プレッシャーを感じずに働ける環境づくりが不可欠です。

なぜ「吃音」は働く場面で悪化しやすいのか

この章のポイント
  • タイミングを選べない・言い換えができない「逃げ場のない状況」が負担になる
  • 「完璧に話さなければ」という強い圧迫感がプレッシャーを生む
  • 一度の失敗が「また詰まるかも」という恐怖と体の緊張を呼び、悪循環になる

学生時代は問題なく過ごせていた人でも、社会に出ると急に言葉が詰まる頻度が増えるケースがあります。 仕事中に言葉がスムーズに出なくなる背景を詳しく見ていきましょう。

「逃げ場のない状況」が症状を加速させる

仕事中は、自分が話すタイミングを自由に選べない場面がどうしても多くなってしまいます。 代表的な場面としては、突然の電話対応や、予期しない来客への応対などが挙げられます。「今なら話せそう」というタイミングを待つことができず、決められた瞬間に必ず発言しなければならない重圧が、言葉をさらに詰まらせる原因となります。

また、重要な会議での報告など、代わりの人がいない状況も言葉の出にくさを悪化させやすい傾向にあります。 言葉が出ないからといって途中で投げ出せない環境が、精神的な余裕を奪ってしまうのです。

「完璧に話さなければ」が予期不安を強める

職場で求められる「正しい言葉遣い」も、吃音を持つ人にとって大きな負担に変わります。 電話口で自社の社名や自分の名前を噛まずに名乗らなければならないという義務感が、「次も言葉が詰まったらどうしよう」という強い不安(予期不安)を引き起こすからです。

友人との会話であれば別の言葉に言い換えてごまかせる場面でも、仕事の報告や専門用語は決まった単語を正確に発音する必要があります。 絶対に失敗できないというプレッシャーが喉や肩の筋肉をこわばらせ、結果として余計に声が出にくくなる悪循環に陥ってしまいます。

一度の失敗が「また詰まるかも」という悪循環を生む

職場で言葉がスムーズに出なかった経験は、心に大きな傷となって残ってしまうことがあります。 電話対応で自社名を噛んだり、重要な会議の中で、急に発言を求められて言葉に詰まって同僚に不思議そうな顔をされたりした出来事は、強い恐怖心として記憶に刻まれます。 過去の記憶が頭をよぎると、「次も失敗したらどうしよう」といった強い不安が生まれてしまうのです。

失敗への不安が大きくなると、身体は無意識に緊張し、喉や胸の筋肉が硬くこわばってしまいます。 筋肉がこわばった状態では声が物理的に出にくくなるため、結果として再び言葉に詰まるという悪循環に陥りかねません。 仕事中の吃音症状は、過去の失敗体験からくる精神的なプレッシャーと複雑に絡み合って悪化していく特徴を持っていると言えるでしょう。

狩野 淳
監修者からのメッセージ

狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)

吃音は、仕事そのものが原因で悪化するというよりも、「失敗できない」「うまく話さなければならない」といったプレッシャーが大きい場面で症状が強く現れることがあります。一度うまく話せなかった経験が強く印象に残ると、「また同じことが起こるかもしれない」という予期不安につながり、緊張が高まることで、さらに話しにくさを感じるという悪循環に陥る場合もあります。一方で、リラックスして話せる相手や環境では症状が軽くなる方も少なくありません。そのため、吃音のある方を支援する際には、本人の努力だけでなく、安心して話せる職場環境や周囲の理解を整えることも大切だと考えられます。

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  • 「体調やメンタルに波があり、長く働けるか不安」
  • 「障害への理解がある職場に就職・転職したい」
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今すぐできる大人の吃音対策

この章のポイント
  • 電話などは事前に「詰まる前提の台本(メモ)」を用意して緊張を和らげる
  • 言いにくい言葉は「はい」を頭に付けたり、別の言い回しに切り替える
  • 詰まった時に備えて「クッション言葉」や「場を繋ぐ定型文」を決めておく

吃音の症状を完全に無くすことを目指すのではなく、実際の仕事の場面で言葉が詰まった時にどう乗り切るかという具体的な工夫を紹介します。

詰まる前提で台本を作る

電話対応など、話す内容があらかじめ決まっている業務では、言葉が詰まる前提で台本を作成する対策が有効と言えます。頭の中で文章を組み立てながら発声するとプレッシャーが大きくなるため、話す言葉を一言一句メモに書き出すアプローチをおすすめします。

台本には、「おはようございます」の後に深呼吸をするマークを書き入れたり、どうしても声に出しにくい単語を別の言い回しに変更したりといった工夫を盛り込むのも良い手だと言えるでしょう。手元に台本が存在する事実が安心感を生み、本番の緊張を和らげる効果に繋がるはずです。

電話対応のテンプレート

電話対応で言葉が出にくくなる場面を想定した、具体的な言い換えテンプレートを状況別に紹介します。会社の基本マニュアルをベースにしながら、発声しやすい言葉を組み合わせて専用のメモを作成しましょう。

1. 電話を受ける時(第一声)

  • フレーズ「はい、おはようございます。株式会社〇〇、事務担当の鈴木です」
  • 工夫:文の先頭に「はい」など、声に出しやすい音を付け足す。

2. 保留にする・繋ぐ時

  • フレーズ「担当者にお繋ぎします。そのままお待ちいただけますか」
  • 工夫「少々(しょ)」などの言いにくい音を避け、言いやすい言葉に置き換える。

3. 不在を伝える時

  • フレーズ「あいにく〇〇は席を外しております。戻りましたら、お電話いたしましょうか」
  • 工夫:長い文章は途中で息が詰まりやすいため、短い文に分割して一呼吸置く。

言葉が詰まった時の「フレーズ」を決めておく

実際に言葉が途切れてしまった瞬間のために、場を繋ぐ決まり文句をあらかじめ準備する作業も欠かせません。発声の最初の文字が出にくい場合は、「ええと」「あの」といった短いクッション言葉を文頭に置くことで、声を出すきっかけをつかみやすくなります。

意図せず沈黙が続いてしまった場面では、「申し訳ありません、少し言葉が詰まってしまいました」と事実をそのまま相手に伝える定型文を用意しておくと、焦りを大きく軽減できます。事前に決めたフレーズを付箋に書き込み、パソコンのモニターなど目に入る場所に貼っておくと、必要なときにすぐ確認できて安心です。

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吃音があっても働きやすい環境・職種

この章のポイント
  • テキスト連絡中心の職場なら、電話や急な受け答えの不安を減らせる
  • プログラマーなど成果物で評価される職種は、実力を発揮しやすい
  • リモートワークは周りの目を気にせずマイペースに働きやすい

言葉のスムーズさよりも成果や文字でのコミュニケーションが重視される仕事なら、精神的な負担を大きく減らせます。

テキスト主体のコミュニケーションが中心の職場

文字でのやり取りが中心の職場は、吃音を持つ人が力を発揮しやすい環境です。

「電話が鳴ったらどうしよう」という不安から解放され、即答を求められないため落ち着いて言葉を選べます。 電話対応や急な指名へのプレッシャーに奪われていたエネルギーを、そのまま本来の業務に注ぎ込める点が最大のメリットです。

話すスキルよりも「成果物」が正当に評価される

成果物や仕事の結果で評価される環境は、吃音を持つ人にとって働きやすい場所です。

口頭報告での話し方ではなく、資料の質や入力の正確性といった「目に見える実績」が評価対象となるため、話す能力で損をする心配がありません。プログラマー、デザイナー、ライターなどの職種が代表例です。

リモートワークや在宅勤務が選択できる

自宅などで業務を行うリモートワークは、周囲の目を気にせず自分のペースで働けるため、吃音を持つ人にとって心強い選択肢です。オフィス特有の緊張感から解放され、発言へのプレッシャーを大幅に減らせます。

オンライン会議でも、チャットで事前に意見を共有したりメモを用意したりとツールを活用することで不安が和らぎ、より安心して業務に集中できます。

大人の吃音はどこで相談・診断できる?受診先の選び方

この章のポイント
  • 医療機関(心療内科・耳鼻科)の選び方
  • 4つの主な治療法と支援体制
  • 治療費用と保険適用の違い

吃音の症状を専門的に診察する医療機関は決して多くないため、症状や目的に合わせて適切な相談先を選ぶ手順が重要です。医学的な診断を受けたい場合や、日常的な発声の負担を減らす訓練をしたい場合など、個別の状況に適した窓口と治療の全体像を紹介します。

まず相談しやすい窓口

吃音の症状について最初に受診する科としては、耳鼻咽喉科、もしくは心療内科や精神科が一般的な選択肢として挙げられます。

耳や喉の器官に異常がないかを確認し、発声の仕組みそのものを診るのが耳鼻咽喉科の役割です。一方、来客の応対や電話対応といった業務に極度のプレッシャーを感じ、動悸や手の震えといった身体的な症状が出ている場合は、心療内科や精神科の受診が適していると言えます。

ただし、すべての病院が吃音の治療に対応しているわけではないため、受診の前に「大人の吃音の相談は可能か」を電話や問い合わせフォームで確認する手順を踏むと安心でしょう。

心療内科・精神科

吃音そのものの治療というよりも、吃音が原因で生じる強い不安やストレス、二次的な心の不調(うつ状態や社交不安など)をケアしたい場合に適しています。

  • 受診の目安: 人前で話すことや電話に対し、動悸や冷や汗が止まらないほどの強い恐怖感がある。気分の落ち込みや不眠が続いている。
  • サポート内容: 不安や緊張を和らげるための薬の処方や、プレッシャーに対する考え方を整理する心理療法(認知行動療法など)を行い、心身の負担を軽減します。

耳鼻咽喉科(言語聴覚士のいる医療機関)

吃音の医学的な診断を受けたい場合や、言葉とコミュニケーションの専門家(言語聴覚士)から直接アドバイスを受けたい場合に適しています。

  • 受診の目安: 自分の吃音のタイプ(発達性か獲得性か)を知りたい。発声のコントロール方法や、吃音と上手く付き合うための具体的な指導を受けたい。
  • サポート内容: 言語聴覚士による、第一声をゆっくり優しく出す練習(軟起声)や、職場での環境調整に向けたアドバイスなどを受けられます。
    【注意点】: 小児と異なり、「大人の吃音」に対応できる言語聴覚士がいる医療機関は全国的に非常に少ないのが現状です。受診前に、必ずホームページや電話で対応可能かを確認してください。

吃音症の治療方法

大人の吃音治療は「完治」ではなく「生活や仕事の悩みの軽減」を目指します。代表的な4つの治療法を紹介します。

言語聴覚療法(ST)(発声の技術を身につける方法)

言語聴覚士という専門家と一緒に、言葉を出しやすくするための具体的な練習を行うアプローチの方法です。

最初の音を「おーはようございます」のようにゆっくり引き伸ばして発声する技術や、息を吐きながら声を出すタイミングを調整する訓練を通じて、実際の会話場面での詰まりを減らす効果が期待されます。

認知行動療法(CBT)(考え方のクセを修正する方法)

「言葉が詰まったらどうしよう」という過度な不安や恐怖心を和らげるための心理的な治療法を指します。

医師や心理士とのカウンセリングを通して、「多少言葉が引っかかっても、相手に意味は伝わっている」といった現実的な考え方を身につけ、電話対応などの予期不安をコントロールする力を養うのが大きな目的と言えます。

薬物療法(薬で身体の緊張を和らげる方法)

現在、吃音の症状そのものを直接治す薬は存在していないのが現状です。

しかし、人前で話す場面で手や声が極端に震えたり、動悸が止まらなくなったりといった「緊張による身体の不調」が強い場合には、抗不安薬などを処方して一時的に症状を抑えることがあります。

狩野 淳
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狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)

大人の吃音への支援としては、言語聴覚療法(ST)、認知行動療法(CBT)などの心理的支援、必要に応じた薬物療法が代表的です。ただし、薬物療法は吃音そのものを改善するための標準的な治療ではなく、不安や緊張などの症状を和らげる目的で補助的に用いられることが多いでしょう。また、成人吃音に対する全国共通の治療法が定められているわけではなく、一人ひとりの症状や生活上の困りごとに合わせて支援内容を組み合わせることが大切です。そのため、言語聴覚士や医師、公認心理師・臨床心理士など、多職種が連携しながら支援を進めることが望ましいと考えられます。

治療費用の目安

病院での受診や治療にかかる費用は、健康保険が適用されるかどうかで大きく金額が変わる仕組みとなっています。

医師による診察や、病気としての診断に基づく言語聴覚士のリハビリテーションであれば、基本的には健康保険が適用され、自己負担は3割で済むケースがほとんどです。

健康保険が適用された場合、1回あたりの診察やリハビリテーションにかかる費用の目安は、およそ1,500円から3,000円程度に収まる傾向が見受けられるでしょう。一方で、医療機関ではない民間の話し方教室などを利用する場合は、全額が自己負担となるため、1回のレッスンで5,000円から10,000円以上の費用が発生する事実もあるので、考慮して相談先を選ぶことが大切になります。

狩野 淳
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狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)

吃音の診療費や言語聴覚療法にかかる費用は、医療機関や受診内容、健康保険の適用状況によって異なります。初診では診察料や検査料が加わる場合もあり、継続的なリハビリテーションでは内容や実施時間によって費用が変わることがあります。また、民間の話し方教室などは自由診療となるため、料金設定も施設ごとにさまざまです。受診や利用を検討する際は、費用や保険適用の有無について事前に医療機関や施設へ確認しておくと安心でしょう。

大人の吃音で利用できる支援制度

この章のポイント
  • 障害者手帳による就労・経済支援
  • 自立支援医療による医療費軽減

大人の吃音によって毎日の仕事や生活に大きな支障が出ている場合、公的な支援制度を利用することで、病院の治療費や働き方の悩みを軽くすることができます。

吃音の症状の重さや医師の診断によって申請できる制度が変わるため、具体的な選択肢を知っておくことが大切です。

障害者手帳

病院で吃音の症状が一定の基準を満たすと診断された場合、障害者手帳を取得できる可能性があります。発声の悩みだけでなく、極度の不安症状などを併発している場合は、精神障害者保健福祉手帳の対象となることがあります 。

手帳を取得すると、税金の控除や公共交通機関の割引といった経済的な支援を受けられます。 また「障害者雇用枠」での就職活動が可能になるため、入社後に電話対応などを免除してもらうといった具体的な配慮を受けやすくなります。

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自立支援医療(精神通院医療)

心療内科や精神科へ継続的に通院する場合、自立支援医療という制度で医療費の負担を減らすことができます。

常の健康保険では窓口での支払いが3割負担ですが、申請して認定を受けると原則1割負担まで軽減されるため、毎月の診察代や薬代が重なる場合の大きな助けになります。

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大人の吃音で利用できる仕事への公的サポート

この章のポイント
  • 就労支援の専門窓口となるハローワークの活用
  • 職場復帰を目指す休職者のためのリワークプログラム
  • 就労移行支援事業所による就職・働き方のサポート

吃音で働き続けることに限界を感じたら、無理せず公的機関を頼るのも手です。自分に合う働き方を探せる代表的な3つの窓口を紹介します。

ハローワーク

全国のハローワークには、一般的な求人窓口とは別に、障害や病気を持つ方の就職活動をサポートする専門の相談部門が設けられています。ハローワーク(障害者専門窓口)では、電話対応がないデータ入力中心の求人を探したり、面接の際に吃音の症状を企業側へ事前に伝えてもらったりするサポートを受けることが可能です。

障害者手帳を持っていない場合でも、言葉が詰まることによる働きづらさを相談できるため、転職を考えた際の最初の相談先として大いに役立つでしょう。

リワーク

吃音による極度の緊張やストレスが原因で、適応障害やうつ病などの不調をきたし、会社を休職している方を対象とした職場復帰の支援制度が存在します。「リワーク」と呼ばれる職場復帰支援プログラムでは、決まった時間に専門の施設へ通うことで生活リズムを整え、ストレスへの具体的な対処法を学ぶ訓練が提供されています。

休職中の社員がスムーズに元の職場へ戻れるよう、医療機関や支援機関のスタッフが会社との間に入り、業務内容の調整を行ってくれる点も大きな特徴に挙げられます。

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就労移行支援事業所

就労移行支援事業所は、働きづらさを抱える人が、専門スタッフへ仕事の悩みを相談できる公的な福祉サービスです。「電話対応が苦痛」などといった職場で直面している限界をどう乗り越えるか、どのような環境へ転職すべきかを一緒に整理する場として活用できます。

就労移行支援manaby(マナビー)について

就労移行支援manaby(マナビー)は、一人ひとりの状況に合わせた「仕事の相談」に力を入れている事業所のひとつです。吃音の症状や仕事でのつまずきをヒアリングし、能力を発揮しやすい業務内容や、無理なく働ける職場の条件をスタッフと一緒に見つけるサポートを行っています。

面接で吃音をどう説明するかや、「第一声が出にくいため配慮してほしい」と入社後に企業へどう伝えるかといった対策も相談可能です。吃音の悩みを一人で抱え込まず、就労移行支援manaby(マナビー)のような専門機関へ打ち明ける行動が、安心して長く働ける環境を見つける一歩に繋がるでしょう。

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毎日を少しずつ安定させるために、生活リズムやメンタル面の整え方を一緒に考えます。
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大人の吃音に関するよくある質問

大人の吃音に関して、多く寄せられる質問と回答をまとめました。

吃音は甘えだと思われませんか?職場にどう説明すればいい?

吃音は脳の働きによるもので、甘えではありません。職場へ説明する際は「電話の第一声が出づらいので代わってほしい」など、具体的なサポートを伝えるとスムーズです。全員に打ち明ける必要はなく、上司や親しい同僚など必要な相手だけに伝える形でも構いません。

大人の吃音は治りますか?

大人の吃音は完治が難しい場合もありますが、工夫次第で生活上の困りごとは大幅に軽減できます。「完全に治す」ことよりも、話し方や言葉の選び方を調整し、上手な付き合い方を身につけるアプローチが大切です。

狩野 淳
監修者からのメッセージ

狩野 淳 (臨床心理士/公認心理師)

成人の吃音では、「完全になくすこと」を一律の目標とするのではなく、症状とうまく付き合いながら、日常生活や仕事での困りごとを減らしていくことを目指す支援が一般的です。症状の現れ方や改善の程度には個人差があり、言語聴覚療法や心理的支援、環境調整などによって話しやすさや生活のしやすさが向上する方も少なくありません。そのため、「治る・治らない」の二択ではなく、自分に合った方法を見つけながら生活の質(QOL)を高めていくことが大切だと考えられます。

言語聴覚療法(ST)はどこで受けられますか?

言語聴覚士(ST)への相談は、耳鼻咽喉科やリハビリテーション科のある病院、保健センターなどで可能です。事前に対象(大人・吃音)を確認しましょう。近くに病院がない場合は、オンラインカウンセリングの利用も便利です。

吃音で障害者手帳は取れますか?

「精神障害者保健福祉手帳」を取得できる場合があります。 手帳があると障害者枠での就職が可能になり、電話対応の免除など配慮を受けやすくなります。取得には専門医を受診し、診断書をもとに審査を受ける手続きが必要です。 

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吃音は発達障害と関係がありますか?

吃音は医学的に「発達障害」に分類されます。性格や育て方ではなく、発声に関わる脳の働きによる「話しづらい体質」のようなものです。 まずは自分の特性を正しく理解し、自分に合った工夫や対処法を見つけていくことが、仕事での悩みを和らげる第一歩となります。

大人の吃音は一人で抱えず、できる対策から始めよう

大人が抱える吃音の悩みは「気の持ちようの問題だ」「練習不足だ」といった誤解で片付けられるものではありません。言葉の詰まりには発声のメカニズムそのものが深く関わっており、 プレッシャーのかかる仕事の場面では、失敗への恐怖から症状が悪化しやすい傾向があります。

職場での困りごとを減らすためには、気合に頼るのではなく、電話対応の台本を作ったり、話しやすいフレーズを準備したりする具体的な工夫が役立ちます。また、チャットやメール中心のやり取りが多い仕事を選ぶなど、働く環境を変える選択も有効な対策となるでしょう。

病院での言葉の専門家への相談や、就労移行支援事業所を利用するなど、外部のサポートを活用する手段も残されています。吃音の悩みを一人で抱え込まず、公的な制度や専門機関に頼りながら、あなたに合った働き方をひとつずつ形にしていきましょう。

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狩野 淳

吃音のある方の中には、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害を併存している方もいます。ただし、すべての吃音のある方に発達障害があるわけではなく、吃音と発達障害はそれぞれ異なる特性として理解することが大切です。仕事や日常生活で「話しにくさ」だけでなく、「段取りを立てることが苦手」「複数の作業を同時に進めることが難しい」といった困りごとが続く場合には、発達障害の特性が影響している可能性も考えられます。一人で抱え込まず、必要に応じて専門機関へ相談することで、自分に合った対処法や支援を見つけやすくなるでしょう。

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