“働けるかもしれない”と思えた日—発達障害のあるWさんが見つけた居場所

感覚過敏や人混みへの苦手意識から、長く家にこもっていたWさん。高校卒業後、約9年間の空白期間を経て、就労継続支援B型を利用し、就労移行支援manabyに通い始めました。PC初心者だった彼が、清掃の仕事に挑戦し、今では職場でPC作業を教える立場に。自分のペースで一歩ずつ前に進んできたWさんのストーリーです。
家にこもっていた日々から、就労への一歩
高校卒業後、Wさんは約9年間、家にこもって過ごしました。
「当時は人混みが苦手で、誰かに見られている気がして外に出られなかった。何かをしたいという気持ちもなく、周囲の声にも耳を傾けられず、働こうという意欲も湧かなかった」と振り返ります。
外に出ることが難しくなったのは高校卒業後ですが、人との関わりへの苦手意識は、もっと幼い頃から心の中にありました。小学校に上がる前から病院に通っていたWさんは、「子どもの頃は人とのコミュニケーションがうまくいかず、しゃべることも苦手でした。自分でも何が苦手なのか、うまく言葉にできなかった」と語ります。
中学・高校時代も学校には通っていたものの、外出や人との関わりには強い抵抗感があり、「誰かに会いたくない」「知っている人に見られたくない」という思いが募り、次第に外に出ること自体が困難になっていったそうです。
転機となったのは、父が病気で倒れたことでした。
「このままじゃだめだ」と奮い立ち、就労継続支援B型の事業所に通い始めます。紙製品の組み立てや袋詰めなどの作業を約3年間続ける中で、「もっと環境を変えてみたい」という思いが芽生えました。
そんな折、manabyのリーフレットを見た父の勧めで、就労移行支援への一歩を踏み出すことに。
「自分では動けなかったけど、親がいろいろ調べてくれて。最初の一歩は、父が背中を押してくれたからでした」と語るWさん。manabyは少し遠かったものの、「ここなら通えそう」と感じ、電話をかけたそうです。
manabyで見つけた「できること」
manabyに通い始めた当初、Wさんは「ちゃんとできるか不安だった」と話します。eラーニングによる訓練や自己分析、スタッフとの会話を重ねる中で、少しずつ自信を育んでいきました。
週5日通所しながら、履歴書の書き方や社会マナー、メモの取り方など、実践的なスキルを習得。最初は通い続けられるかどうかも不安でしたが、徐々に体力もついてきたといいます。
自己分析では、短所ばかりが思い浮かび、落ち込むことも多かったそうです。それでも、支援員から「それも長所かもしれない」と声をかけられたことで、少しずつ自分を認められるようになっていきました。簡単ではなかったけれど、履歴書に書ける内容が増えたことで「やってよかった」と振り返ります。
人と話すことに苦手意識があったWさんですが、支援員とは安心して会話ができた経験が、自己理解を深めるきっかけになったようです。
清掃の仕事に挑戦、そして「教える側」へ
manabyでの訓練を経て、Wさんは地元で仕事を探し、製造企業の清掃の求人に応募。スムーズに採用が決まりました。事業所で面接練習を重ねた成果もあり、落ち着いて話すことができたと振り返ります。
現在は清掃業務に加え、工場内で製品を運ぶ作業も担当。業務の幅が広がる中で、同じ職場で働く障害者雇用の方にPC作業を教える役割も担うようになりました。
「ちゃんと伝わるか不安でしたが、訓練で学んだことが身になっていて、教えることができました」と語ります。
できることが増えるにつれて、任される仕事も広がっていきました。少しずつ職場での信頼を得ていることを感じているといいます。
「今は周囲の支えを受けながら働いていますが、将来的には自分の力で仕事をこなせるようになりたい」と意気込みを語ります。
こだわりすぎず、まずは動いてみること
就職活動では、事務職を目指していた時期もありましたが、地元では求人が限られていたため、さまざまな職種を検討しました。
「条件にこだわりすぎると何も見つからない。もう一度、自分の中で許容できるところを探していったほうがいい」と実感したといいます。
現在の仕事は事務職ではありませんが、職場の環境は整っていて、福利厚生も充実しています。相談にも乗ってもらえる安心感があり、家族からも「いい職場でよかったね」と声をかけられたそうです。
「正直、何もしていなかった頃には、今の自分なんて想像もできなかった」と語るWさん。ここまで来られたのは運がよかった、支えてくれた人たちがいたからこそ、そしてやっぱり自分が動かないと何も変えられない、と続けました。
「親に迷惑をかけた分、少しでも恩返しがしたい。これからも一人で生きていくのは難しいけれど、できるだけ自分の力で生きていけるようになりたい」と、静かに前を向いています。
今後は、勤務時間を少しずつ延ばし、ゆくゆくは正社員として働けるようになることが目標です。
「発達障害もあるけれど、なんとか頑張れている」とゆっくり語るその姿には、確かな自信が感じられました。
(2025年8月取材)